2024年3月2日土曜日

4. スイスに学ぶ 日本の危機管理と未来

みんな心の中に『憧れのヒーロー』を持っています。

私は小学校時代、理不尽な代官をやっつけるウィリアム・テルが大好きで、図書館の絵本を何回も読みました。 しかし最近、本屋にも図書館にも ウィリアム・テル の本が見当たらず不思議に思っていたところ、元スイス大使の国松孝次著『スイス探訪』 を読み、「成程、そういう事だったのか!」と合点がいきました。
 世界で最も邪悪な国々に囲まれ、脅威に晒されている日本人が是非参考にしたい一冊です。この国松氏はオウム事件捜査中に自宅前で狙撃され、九死に一生を得た元警察庁長官です。



日本でウィリアムテルがもてはやされたのは、大戦後、日本を占領した連合軍最高司令官マッカーサー元帥が『日本は太平洋のスイスたれ!』と言った事に端を発しているようです。特にスイスは永世中立国なので、日本の非武装中立論者が中心となり熱い視線が向けられました。 しかしスイスはガチガチの武装中立国、国民皆兵を国是とする国ですから、勉強するほどに 『これは話が違う』 となり、以降、日本人の関心は観光に特化していき、テルの本も絶版となり全国の書店から姿を消したようです。

しかし、ロシアのウクライナ侵略、北朝鮮の核ミサイル脅威拡大、中国の南・東シナ海・台湾への問答無用の軍事脅威、ハマス・イスラエルによる中東危機は、【非武装中立は幻想にしか過ぎない】ことを教えてくれました現在の日本のように国際的な自立心も誇りも失った国は、諸外国から疎んじられ、つけいられるしかない訳です。

日本人はスイスが大好きで、年間100万人が訪れますが、その殆どは美しいアルプスやハイジの物語を愛しても、スイスの歴史や文化に興味を示す人は極めて少ないようです。

国松氏が指摘されるように、『スイス独特の直民主制・連邦制、ナポレオンやヒットラーも支配を諦めた国民性・安定した政治・社会の仕組み、特化した分野に独自の強味を発揮する経済力と科学技術力等々』   、目標を失って混迷する私達日本人が、今こそ本格的にスイスを勉強し学ぶ時ではないでしょうか。

そこで今回は、14世紀スイス独立の象徴的英雄である、ウィリアムテルをテーマに取り上げました。


【ウィリアムテル物語】

14世紀初頭、神聖ローマ皇帝アドルフの時代、ハプスブルグ家は、強い自治権を獲得していたウーリ地方の支配を強めようとしていた。 ウーリのアルトドルフにやってきたオーストリア人の代官ヘルマン・ゲスラーは、中央広場にポールを立てて自身の帽子を掛け、その前を通る者は帽子に頭を下げてお辞儀するように強制した。

しかし、テルは帽子に頭を下げなかった為に逮捕され、罰を受ける事になった。ゲスラーは、クロスボウ弓の名手であるテルが、テルの息子の頭の上に置いたリンゴを見事に射抜く事ができれば彼を自由の身にすると約束した。テルは、息子の頭の上の林檎を矢で射るか、それとも死ぬかを、選択することになった。


運命の1307年11月18日、テルはクロスボウ弓から矢を放ち、一発で見事に林檎を射抜いた。しかし、矢をもう一本持っていた事を見咎められ、「もし失敗したならば、この矢でお前を射抜いて殺してやろうと思っていた」と答えた。ゲスラーはその言葉に怒り狂い、テルを連行する。しかし彼は嵐の中を護送中、かろうじてゲスラーの手から逃れ、岸で待っていた息子より弓矢を受け取り、見事ゲスラーを射殺。町へ戻った彼は英雄として迎えられた。

この事件は反乱の口火となって全土に広がり、スイスの独立に結びついた。



【ウイリアム・テルとスイス人】
  ハプスブルグ家は、中世、神聖ローマ帝国の皇帝位を約四世紀にわたって独占し、『太陽の没することなし』と言われた大帝国を築いた名門王朝で、その発祥の地がスイスのアールガウ地方です。 

スイス建国の歴史は、ハプスブルグ家との戦いの歴史です。圧政に苦しむウーリ、シュヴィーツ、ニトヴァルデンの3州の人士がリュトリの丘に集結し、『永久同盟』を結んだのが建国の始まりです。
1315年1115日、スイス同盟にとって存亡を掛けたモルガルテンの大決戦が行なわれました。ハプスブルグ家軍 3700名、スイス軍はわずか1300名です。それはあたかも織田信長 『桶狭間の戦い』 でしたが、スイス軍は寄せ集めの農民、常識では、とても勝ち目はありません。そこで彼らは山地に身を潜めて待ち伏せし完膚なきまでに撃破しました。その後、何回も両軍は戦いスイス軍は連戦連勝、ついにハプスブルグ家を東方辺境のオーストリアに追い落とします。
しかしここが歴史の面白いところで、スイス支配を諦めたハプスブルグ家は、武力ではなく、『結婚外交政策』 でヨーロッパ各地の支配を拡大し繁栄します。
ウィリアム・テルは実在しなかったようですが、建国の勇士を象徴する存在として、700年を経過した今も、スイス人に深く愛され尊敬されています。

 

スイス人はテルが大好きです。テルやテルの息子は様々な絵やイラストになり、スイスを象徴するモチーフとして使われることが多く、矢の突き刺さった林檎も同様にモチーフとして使われています。

スイスの紙幣、硬貨、切手にも当然のように登場し、19181925年に発行された100スイスフラン紙幣やその後発行された5フラン紙幣にはウィリアム・テルの肖像が描かれていたほか、1954年から発行された第5次銀行券の最高額面1,000フランの裏面には地模様に矢の突き刺さった林檎が描かれています。また硬貨には1922年に5フラン銀貨が改定された時に、その肖像が使われ現在も同じ図案です。切手には長期に渡って紙幣と同じテルの顔が普通切手に使われ、テルの息子の肖像も普通切手に登場している。また矢の突き刺さった林檎も児童福祉の慈善切手に2回登場しています。

 

実は日本にも ウィリアムテルに匹敵する実在の英雄が沢山存在します。 

神話時代の神武天皇は別として、
〇平安時代に和の政治を定着させた聖徳太子
〇2度の元寇襲来を撃退した北条時宗
〇天皇の為、義の為、勝つ見込みのない戦いに命を掛けた楠木正成親子
〇戦国時代を終焉させた織田信長・豊臣秀吉・徳川家康

○財政破綻の米沢藩を建直し ケネディからも尊敬された上杉鷹山
  http://kamuimintara.blogspot.jp/2013/11/6.html 
〇幕末混乱を近代日本に導いた吉田松陰・高杉晋作・坂本竜馬・西郷隆盛
〇圧倒的軍事力劣勢の日露戦争を勝利に導いた山本権兵衛・児玉源太郎
〇3倍以上の圧倒的なロシア艦隊を全滅させた東郷平八郎・秋山真之
〇『自分は死刑でもよい、日本国民を救ってくれ』と訴え、マッカーサー
  元帥を驚かせた昭和天皇
等々・・・まだまだ沢山の英雄・偉人が存在します。

 

しかし、現代日本人は、WBCやオリンピックの日本人活躍に熱狂することはあっても、日本人が誇りとすべき偉人・英雄に殆ど関心を持ちません。

歴史家アーノルド。トインビーはこういってます。

『自国の歴史を忘れた民族は滅びる』

また司馬遼太郎氏も、こういう現代日本に危惧を抱き、歴史上の偉人を題材に名作を書き続け、次のような警鐘を鳴らしました。
  『国民が自国の歴史や文化への誇りや関心を失った時に 国は滅ぶ』
日本人が誇りや求心力を失った現状をついて、近隣諸国が尖閣列島・竹島・北方領土を強引に併合しようとする現代、まず大事なことは国民全体が日本の歴史を勉強し直し、しっかりとした自分の考え・人生観・国家観・世界観を築く事が大事なのではないでしょうか?

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